5日目:
マウンテンゴートとクマとの出会い
ウェストグレイシャー→アプガー→ヒドゥン・レイク→ウォータートン→セントメリー (1998/8/13)
8時前にモーテルを出発。アプガーのビジターセンターでに行って、動物に会える場所を聞くことにする。
アメリカの国立公園を旅行する楽しみは動物に会うこと、何と言ってもここではマウンテンゴートと、
ビッグホーンシープが双璧だ。
レンジャーは若い姉ちゃんで、ちゃんと教えてくれるかなと思ったが、そんな心配は全く無用だったようで、
きっちり答えてくれた。マウンテンゴートに会うには、昨日行ったローガンパスからヒドゥンレイクへのトレイルを
歩くのがよいそうだ。昨日はクマのため通行止めになっていると看板があったが、と聞いたところ、通行止めになって
いるのは、ヒドゥンレイクよりも先のトレイルで、マウンテンゴートに会うには、そこまで行かなくてもよいということだ。
昨日トゥーメディスン・レイクでは、トゥイン・フォールズへの道がクマで通行止めになっていたという話をすると、
「オゥノゥ。そこにいかなくてどうするの」という反応をされた。そうまで言われると、本当に残念な気がしてくる。
姉ちゃんにお礼を言って出発。ふと、モーテルのカギを返し忘れていたことに気づく。まだ遠くに行かないうちに
気づいて本当によかった。急いでカギを返しにウェストグレイシャーまで戻って、8時40分、再出発。
昨日来たゴーイング・トゥ・ザ・サンロードを逆方向に戻る。レイクマクドナルドを過ぎ、延々と上り坂。
こんな坂でも自転車で元気良く上っている人が何人もいる。信じられないパワーだと思う。ローガンパスへ10時40分頃到着。
ビジターセンターに立ち寄ってから、ヒドゥンレイクへのトレイルを歩く。
歩き始めてすぐのところで、人が集まって、双眼鏡を手に、左側遠くの方を見ている。なんだなんだ。
聞くと、遠くにクマがいるらしい。おばさんが貸してくれた双眼鏡で、ずっと遠くの山の斜面を見ると、
草原のようなところに確かに黒いクマが歩いている。どのくらいの距離があるのだろうか。肉眼では全くわからないが、
野生のクマを見るのはこれが初めてだ。感激。
自然を守る配慮からか、地面が凸凹では歩きにくいからか、人が歩くところには木でトレイルが作られており、
緩やかに上って進む。トレイルの両側に咲き乱れる色とりどりの高原植物がたいへん美しい。水が流れているところには、
また色の違う花が咲いている。
前から来た人が、この先でマウンテンゴートを見たと言っている。さぁ、急ごう。
しばらく小走りで進むと、いたいた、マウンテンゴートが一頭、30メートルぐらい離れたところで草を食べている。
目がクリッとしてかわいい。笑い顔をしていてなんともかわいい。毛も真っ白で、ふさふさしている。
しばらく見ていると、こちらに向かって歩いてきた。
人がたくさん集まってきているが、マウンテンゴートくん、ぜんぜん気にするふうでもない。
人が集まっているそばで立ち止まって、じっと遠くを見ている。しばらくたたずんだ後、集まっている人には全く気も留めず、
人が通るトレイルを横切って山の方に向かって歩いて行った。人間が動物に危害を加えたり、エサを与えたりしなかったら、
動物も自然のままの姿でいられるんだということがよくわかる。本来の動物の姿を目にして大いに感動する。
しばらく進むと、またマウンテンゴートがいた。今度は親子だ。親ゴートの後を子ゴートが二頭、
メェーと鳴きながらついて行く。子供はまだ毛が短く、あまりふさふさした感じではないが、やっぱり笑い顔だ。
かわいい。これから生え変わるのか、毛のぼろぼろの親ゴートが立ち止まっておしっこを始めた。
「地球の歩き方」によると、立っておしっこをするのが雄、しゃがむのが雌だそうだが、果たしてこのゴートは、
うーむ、立っていると言うべきなのか、しゃがんでいるのか、なんとも言えない。中腰だ。子供が付いて行くんだから、
やっぱりお母さんかな。このゴートたちも、人のことを全然気にするでもなく、人が通るトレイルを横切って茂みの中に
歩いて行った。
周りにはリスがちょろちょろしている。少し歩いてヒドゥンレイクの展望台に到着。
眼下の湖や、その向こうに広がる山々が美しい。この先のトレイルは、アプガーのお姉さんに聞いた通り、
クマが出るということで通行止めになっている。湖を眺める展望台のさらに上の方に人が集まっているので行ってみると、
目の前の山肌に白く動くものがある。マウンテンゴートだ。隣にいたおじさんが双眼鏡を貸してくれた。
ゴートがあちこちの岩の陰に座っている。坂道を登っていくゴートも見える。かわいいなぁ。
マウンテンゴートは強い動物から身を守るために岩場で暮らしており、そのため足が太く短くなっているという。
急な岩場でも器用に登っていくようだ。
帰り道でももう一度マウンテンゴートの親子連れがいた。ゴートを十分に堪能した後、
トレイルをビジターセンターまで戻る。あたりには黄色とピンクの高原植物も咲き乱れ、楽園のようだ。
途中で何人かが山の上の方を眺めている。聞くと高い崖の上にゴートがいるらしい。
カメラを望遠して覗いてもほとんど点にしか見えないが、確かに動いている。ゴートだ。
よくもまあ、あんな高いところまで登ったものだ。ゴートでもたまに足場を踏み外して怪我をすることもあるようで、
命がけだそうだ。
ビジターセンターまで戻って、ベンチに座り昨日の夜に買ったパンを食べて昼ご飯にする。
ビジターセンターの周りにベンチがいくつかあるが、よく見ていると日の当たるところに座る人が多い。
紫外線を避けるためわれわれは日陰のベンチを選ぶ。
「地球の歩き方」にも書いてあるが、昼頃のローガンパスは駐車場のスペースがなくて車で混雑しており、
あふれた車が駐車場の中をグルグル回っている。1時頃にローガンパスを出発する。
ゴーイング・トゥ・ザ・サンロードをセントメリーへ向かう。セントメリーでは今日と明日泊まることになる
ロッジの前でガソリンを入れ、グレイシャー国立公園と国境を挟んで隣接する、カナダのウォータートン国立公園へ向けて
出発する。1時40分。
湖を左手に見ながら高原の道を走る。もう少しでカナダだというところで、牛がゆっくり道路を横切っている。
慌てて車を停めるが、牛くんの方はぜんぜん動じる気配もなく、道の真ん中に止まって「なあんだぁ?」という感じで
こちらを見て立ち止まっている。こののんびりした感じ、いいなぁ。でも、早く渡ってくれよ。進めないぞ。
しばらく走って国境(チーフマウンテンの税関)に到着。高速道路の料金所のようなところにお姉さんがいて、
パスポートを見せる。どのくらい滞在するのか、クマ避けスプレーを持っていないか(緊急時に使うクマ避けスプレーは
カナダには持って入れないそうだ)など聞かれたあと、何かひとつ質問されたのだが、何を聞かれているかわからず
「Excuse me?」を繰り返していると、苦笑いをして通してくれた。今思うと
「カナダに何か持って行って売る気はないだろうね」ということを聞かれていたような気がする。
2時10分頃、国境を通過、アルバータ州に入る。
話には聞いていたが道路標識がいきなりキロメーター表示になり、なんか変な気分。どんな看板を見ても、
英語とフランス語の併記になっているのには感心する。それでもフランス語をしゃべる人って、
このあたりにそんなにいるのかなと思う。アメリカ国内でもメキシコの近くに行けばもちろん、
あるいはサンノゼの町の中でさえスペイン語をしゃべる人がたくさんいるが、今回の旅行を通して結局フランス語を
耳にしたことはなかった。
見晴らしのよい展望所があったので車を停めて外へ出る。カナダ初上陸。カナダ国旗が新鮮だ。
ウォータートン国立公園の入口には2時40分頃に到着。念のためアメリカ国立公園のゴールデンイーグルパスが
使えないか聞いてみるが、やっぱり無駄だった。入園料は、ふたり以上のグループは一律$8ということだ。
しばらく走っていると車がたくさん停まっていて、人が車から降りて山の方を見ている。何だ何だ。胸が高鳴る。
急いで車を停めて降りてみる。おお、クマだ、クマがいる。すごい。熊だ、クマだ。とうとう野生のクマを肉眼でも
はっきりとわかる距離で見ることができた。クマくん、草を食べながらどんどん歩いていく。クマの動きについて人も動く。
その距離は100mくらいだろうか。もしこちらに向かってきたら車まで逃げ帰れるだろうかなどと考えながらクマくん見物。
うーん、感動だ。しばらくするとクマくん、山の方に姿を消した。
車を進めていくと、右手にプリンスオブウェールズホテルという表示が見えたので、行くことにする。
湖畔の気品あふれる由緒正しいホテルだと言われているようで、一見そういう雰囲気も漂わせているのだが、
後にそれが「大きな間違い」だったことに気づく。
ロビーにあるカフェに行く。2時から4時までがハイティー(アフターヌーンティー)の時間で、今は3時10分。
ちょうどいい時間に来たようだ。ウェイトレスさんも、赤いチェックのスカートをはいて英国の雰囲気を漂わせている。
満席でしばらく待つことになり、名前を伝えてその間みやげもの屋で絵葉書を探す。
カナダドルとアメリカドルのレートをお店のお兄さんに聞くと、クレジットカードならUS$1=CA$1.45、現金ならUS$1=CA$1.34
だと紙に書いてくれた。
時間が来て、カフェに行く。最初に通された席が窓際ではなかったので、湖が良く見える窓際の席に換えてもらう。
お姉さんは片づいていなかったテーブルを片づけてくれて、席に通してくれた。
普通の紅茶とアールグレーの紅茶を注文する。目の前には湖が広がっていて、景色はたいへんきれいなのだが、
問題がひとつ。蝿である。蝿がまわりをぶんぶん飛んでいる。それも一匹や二匹ではない。ブンブン。
紅茶の本場、英国の雰囲気のあるホテルのカフェの紅茶ということで、期待して待つが、しばらくして出てきたのは、
普通のアメリカのレストランと同じように、ティーバッグ。ブンブン。でもさすがにティーバッグの中では
上等の物なのだろう、まずまずおいしい。ブンブンブン。
ケーキやお菓子、サンドイッチなどがお皿に盛られて出てきた。ブンブンブンブン。おいしそうだが、
ブンブンブンブンブンブン。
もう、たまらん。ウェイトレスさんに言っても、どうしようもないようだ。ブンブンブンブンブンブン。
もう一度言って席を変えてもらうが、それでもまだハエくん大暴れ。どうしようもないのか。
お値段は二人分税込みカナダドルで$37.34。でチップをどうしようか迷う。こういう蝿を放置しているのは店の問題で、
ウェイトレスさん個人には関係無いからチップは必要なのだろうかという気もしたが、そういう理屈は抜きにしてとにかく
不快だったのだから、なんで払わなければならないのかという気持ちが勝って、1¢も払わないことにする。
ウェイトレスとしても、この蝿を見て何もできないなんてことはないはずだし。
後味の悪い思いを引きずって、ウォータートンのタウンサイトへ車を走らせる。自転車に乗っている人も多い。
ここカナダのウォータートンはアメリカの国立公園とは違って、日本の軽井沢や清里のように人の手が加えられた観光地に
なっていると「地球の歩き方」に書いてあったが、歩道の整備の仕方や、並んでいる建物を見ると、その意味がよくわかった。
アメリカの国立公園が自然をそのまま残して、できるだけ手を加えないようにしているのだということが、
カナダに来てあらためてわかった。
またしばらく走ると、きれいな滝が流れているところに出る。カメロン滝というようだ。町のすぐ近くにあるのにしては、
美しい滝だ。近所の人が集まってバーベキューでもする様子だ。
このタウンサイトでもビッグホーンシープを見ることができるということなので、キョロキョロしながら走っているうち、
左手の茂みの中にシカが座っているのを発見する。2、3頭いるようだが、じっとして動かない。
しばらくタウンサイトを走ったが、ビッグホーンシープがいそうにもないので、ここで引き返すことにして、
途中にあるビジターセンターに寄る。アメリカのビジターセンターよりも、ちょっと質素な感じ。
ビッグホーンシープを見たいと言うと、レッドロックキャニオンに行ってみるととよいと、お兄さんが笑顔で教えてくれる。
アメリカにも負けないくらいフレンドリーだ。いいぞ。レンジャーさんが親切なのはアメリカだけじゃないんだと思い、
うれしくなる。レッドロックキャニオンでビッグホーンシープに会える確率を聞くが、お兄さんは答えにくそうに、
何とも言えないけど行ってみることだねと笑っていた。
「ハエ」ホテルの前を通り過ぎ、レッドロックキャニオンに向かう。車が何台か停まっていて、人が集まっている。
おぉ、またクマだ。今度は子グマのようだ。かわいい。ゆっくり通り過ぎる車の中からワンちゃんが顔を出して、
人間と同じようにクマの方を見ているのが面白い。ワンちゃんはクマを見てどう思っているのだろう。
子グマが草を食べながらどんどんこちらに近づいてきて、もう10mくらいのところにまでやってきた。歩くのは早い。
いくら子グマとはいえ、ちょっとこわい。ひやひやして眺めていたが、子グマの方は人間には関心がないようで、
また山の方に戻って行った。
道を左に曲がって、レッドロックキャニオンへ。ビッグホーンシープを探して、道の左右を注意深く見ながら進む。
また車が停まっている。みんなずいぶん遠くを見ている。聞いてみると、今度もクマだった。クマもいいけど、
そろそろビッグホーンシープが見たい。
クマもそこそこにして出発。するとまた車が停まっている。5月にイエローストーンに行って以来、
前方に車が停まっているのを見るたび、胸が高鳴り、車を停めてダッシュするクセがついてしまった。
今度も遠くの方に見えるクマだった。クマ、多いなぁ。
そうこうするうちレッドロックキャニオンの駐車場に到着。駐車場に白っぽい動物がたくさんいる。子供もいるぞ。
自動車のにおいを嗅いだりしながら集団で歩いている。えさを探しているのだろうか。見ていたおじさんに聞くと、
ビッグホーンシープのメスだということだ。なるほど、メスには大きな角がないということか。シープ、羊。
ヒツジっていうと、ズングリむくむくしたものを想像するが、このシープはスラッとしていて、
イメージとしてはシカのようだ。
そのうち、あるシープが駐車場の片隅で地面をなめ始めた。人間がジュースをこぼしたのか、何もない地面をなめては、
また足でガッガッガッと掘るということを繰り返している。そのうち他のシープもたくさん集まってきたが、
独り占めしたいヤツがいるようで、ケンカをはじめた。そんな人間がこぼしたジュースでけんかしないでくれよ。
どうもここのシープは俗化しているようで、残念な気がする。動物は野生のままであってほしい。
そういう気持ちを抱くのも人間の勝手なことなのかもしれないけど。シープだってお腹が空いてつらいに違いないし。
とうとうぶつかり合いの激しいケンカを始めた。つのとつののぶつかり合う音が聞こえる。なんかかわいそうだなぁ。
そういうシープのおしりを後ろから撫でようとしている怖いもの知らずのばあさんもいる。おいおい。
駐車場から、キャニオントレイルを歩くことにする。同じトレイルでも、説明を書いた看板の見た目も、
またフランス語が併記されているという点でも、アメリカとはちょっと違う雰囲気だ。
レッドロックキャニオンという名前の通り、赤い岩でできた渓谷で、なかなかきれいだ。
渓谷といってもそれほど大きくはなく、ぐるっと回って20分くらいのトレイルだった。
もう少し時間がありそうなので、ブラキストン滝へも歩くことにする。少し薄暗くなり始めていて、
人通りも少なくなっている。クマ避けのスズを鳴らしながら歩く。大きな角のあるビッグホーンシープには
会えそうな雰囲気じゃないなぁ。15分ほどで滝に到着。滝はなかなか迫力があって、いい感じだ。
ちょっと休んでから駐車場に戻る。
先ほどのシープ集団がまだ駐車場にいる。やっぱり俗化している。エサをやってしまう人間がいるから、
こんなところに集まってくるんだろうな。いけないことだと思う。
駐車場を8時頃に出発。来た道を戻る。するとすぐ右手に動くものが・・・。シカだ、エルクかな。
シカもいいけど、ビッグホーンシープが見たい・・・。
通ってきたウォータートン国立公園の入り口を通過し、国境へ向かう。国境は10時まで(夏季)しか開いていない
ということだが、まだ時間には余裕がある。国境では免許を見せるだけで特に何を聞かれるわけでもなく通過。
9時5分だった。セントメリーには9時50分頃到着。今日と明日はSt.Mary Lodge & Resort(TEL 406-732-4431)で宿泊。
一泊$90。
事前に送ってもらった予約確認の手紙を持って、宿泊の手続きをする。その間にもフロントに空き部屋がないか
訪ねてくる人がいるが、お姉さんは、「残念ながら満室なの。ここからだったら一番近いのがカナダのカードストン、
そうかイーストグレイシャーに行くしかないわ」と答えている。この時間から、車で1時間もかかるようなところに
行って宿を捜さなければいけないのはちょっと気の毒。
コンピュータの処理がうまく行っていないようで、手続きにずいぶん時間がかかっている。
お姉さんは自分一人では埒があかないらしく、他の人を呼んできた。そのお兄さんもてこずっている。
コンピュータがおかしいとか何とか言っている。
おいおいちょっと待てよ。もしかして部屋がないとか?。人のことを気の毒がっている場合ではなかったかもしれないぞ。
心配しながら待っていると、お姉さんは「大丈夫、大丈夫、部屋は絶対にあるから安心して」と言う。本当かな。
しばらく待っていると、良かった、うまくいったようだ。
長い一日が終わった。